Column & Diary

[代表雑記 004] 福岡出身者のある悲哀

2017年10月2日

column_171002_2

東京には福岡出身者が多い、という話をよく聞く。
やたら熱くなったり、目立ちたがったりする福岡人特有の“のぼせもん”気質が、
東京でひと旗上げようという上京志向に影響を与えているのでは、ということらしい。
さらに、これは僕の持論だが、福岡人は福岡のことを九州一だと認識していて、
そこからステップアップするには大阪か東京しかないと考えている。
そして場合によっては、福岡は大阪と同等か、それ以上ととらえている人もいるので、
選択肢は東京のみとなり、結果、東京に福岡出身者が集まることになるわけだ。

と、こうして東京で暮らすことになった福岡出身者だが、
時として周囲の人からこんなことを言われるようになる。
「いいですね、福岡。おいしいものがいっぱいあって。今度、いい店教えてください」
多分に社交辞令的な意味合いを含んでいたとしても、
この言葉は自分が福岡出身であることを誇らしく思う瞬間だ。
そして同時に、じつはちょっとだけ引け目を感じてしまう瞬間でもあるのだ。

というのも、東京にいる福岡出身者の多くは、おそらく高校卒業の直後、
つまりお酒を飲める年齢になる前に上京しているため、
福岡のおいしいものを出すお店(とくに飲み屋)などに、そこまで詳しくなかったりするのだ。
いやいや、帰省した時においしいもの食べに行くでしょ?と、あなたは言うだろう。
しかし、盆と正月の年2回の帰省で、どれだけお店を回れるだろうか。
しかも正月の時期は、目当てのお店が営業してない可能性もある。
福岡出身と聞いて期待される、地元のおいしいものを知りつくした福岡人のあるべき姿。
東京で暮らす福岡出身者は、そこには到底およばないことに
わずかばかりの悲しみを抱えている者も少なくないはずだ。

とはいえ、帰省を重ね、自分もいい歳になってくると、それなりにいいお店の知識も蓄積してくる。
僕の福岡の友人は、おいしいものを食べるのが好きな人間が多く、
帰省するたびにいろんなお店に連れて行ってくれるので、すごく楽しい。
最近よく思うのは、福岡は有名店とかじゃなくても、普通のお店のレベルがすごく高いということだ。
食材の新鮮さ、種類の豊富さ、ボリューム感、そしてクオリティに対する料金の安さ。
どれをとっても同レベルの東京のお店を凌駕するものがあると思う。

おいしいものがたくさんある、というより、ふだん食べるものがどれもおいしい。
それが、福岡のおいしいものをあらわすのにふさわしい言葉かもしれない。