Column & Diary

[代表雑記 100] オーバーナイトサクセス

2018年5月21日

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「オーバーナイトサクセス」という言葉がある。
僕が知ったのは、けっこう昔。20年以上前ではないだろうか。

場所はニューヨーク・ブロードウェイ。
ある舞台の初演が幕を開ける。客席には辛口で知られる批評家たちがずらり。
張りつめた緊張感のなか、圧倒的な演技力と存在感で観客を魅了する無名のヒロイン。
彼女の声、表情、動きの一つひとつが、見る者の心を震わせ、舞台を支配していく。
割れんばかりの喝采を浴びながら、初演の幕が閉じる。
あくる朝、新聞各紙はその舞台の素晴らしさと、ヒロインの類まれなる才能を絶賛する。
無名だった彼女が、一夜にして成功を手にした瞬間だ。

僕はこの、オーバーナイトサクセスという物語が大好きだ。
この話の根底には「才能がある者はいつか必ず報われる」という考えが
息づいているように思うからだ。
才能があっても不遇な時期を送っている人は山ほどいるだろう。
でも、チャンスとタイミングをしっかりとらえて、
自分の能力を最大限に発揮できれば、きっと評価される瞬間はやってくる。
もしそんなシンデレラストーリーが生まれたら、目撃した側も単純にうれしくなってしまう。

昨夜の大河ドラマ『西郷どん』の二階堂ふみの演技を見て、
このオーバーナイトサクセスという言葉が頭に浮かんだ。
二階堂ふみは無名の新人でもないし、演技派女優としても広く知られている。
個人的には、若手のなかでは群を抜いて上手い役者と思っていたが、
いわゆる“お茶の間”レベルでは、ぐるナイを自ら卒業した女性タレントというぐらいの認識が
強かったのではないだろうか。

彼女はその認識を自らの演技で圧倒し、お茶の間レベルで演技派女優という評価を勝ち取った。
放送終了後、SNSには彼女の圧倒的な演技をたたえるコメントがあふれだした。
まさに、オーバーナイトサクセスではないか。

こういうのを見ると、なぜか自分まですごくうれしくなる。
能力をもった人が、正当に評価させる世の中。それはとても健全な世の中だ。
そして思う。自分は人に評価されるほどがんばっているか?
そんな問いがいつも生まれ、その瞬間、少しだけ自分の背中を押してくれるように感じるのだ。