Column & Diary

[代表雑記 010] こうなりたい頭の中身

2017年10月16日

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本屋にいると、自分がちょっとだけ知的な人間になったような気になれます。
もちろん100%錯覚にすぎませんが、
あの少しだけすまし顔で歩いてみたくなる感じ、嫌いじゃありません。

以前、僕が勤めていた会社が京橋にあったのですが、
その会社の近くにINAX(現在のLIXIL)が運営していた本屋がありました。
現在も、「LIXILブックギャラリー」という名で同じ場所にあるようですね。
この本屋は、本をいわゆる単行本や文庫本、新書ごとに並べるのではなく、
いろんな種類の本をテーマごとにまとめて、
さらに近いテーマの本たちをその周囲に配置するというような、
ちょっと変わった置き方をしていました。
現在でいうところの「ヴィレッジ・ヴァンガード」とか「蔦屋書店」とかがやっている、
今となっては目新しいわけでもなくなった陳列方法ですが、
その当時の僕にとっては画期的で、すごく知的な空間に見えました。
デザインのテーマで建築系の本があると、海外建築の書籍群から旅行関係へとつながり、
そこから世界史関連、民族学関連へと広がっていきます。
まるで脳のシナプスが枝分かれしていくような、
頭の中身を本で表現したような構成にやられてしまい、この本屋がすごく好きになりました。
会社を抜け出しては、よくこの空間に浸って時間をつぶしていたものです。

当時の僕は、コピーライターとしてはまだまだ駆け出しの頃でした。
頭ではもっとうまく書けると思っていながら、実際にはぜんぜん書けないという、
本当に救いようのない最悪な時期でした。
自分の想像とはほど遠い稚拙なコピーしか書けない不甲斐なさをいつも抱えていて、
だからこそ、理路整然として知的でユーモアもあるこの本屋を、
自分の理想とする“頭の中身”みたいなものとしてとらえていたのかもしれません。
ここはまさに、自分が少しだけ賢くなったような気になれる場所だったのです。

今となっても、頭の中身はあの頃とあまり変わっていないようです。
アイデアに煮詰まると、夜な夜な蔦屋書店に出かけては、
本や雑誌を眺めながら奇跡のひらめきが降ってくるのを待っていたりします。
それは、ただの現実逃避タイムにすぎないというのに。

でも、そうやって何も思い浮かばなかったとあきらめた瞬間に頭がまわり出し、
なにかアイデアめいたものが生まれる時もたまにあります。
人の頭に頼るのではなく、自分の頭をちゃんと使え。
何回も、そう見透かされたような瞬間を重ねてきたにもかかわらず、
また本屋に通っては何かを期待してしまう自分が、あいかわらずいるのです。