ずっと気になっていたが、結局DVDで観ることになった、この作品。
さすが評判通り。というか、それ以上に素晴らしかった。
アニメ作品の枠を超えて、その年の映画賞をガッツリもっていった
という評価はだてじゃないと納得してしまった。
まず僕がすごいなと思ったのは、全体の絵柄のトーン。
そこまで精細な描写ではなく、絶妙に抽象的というか、マンガっぽい印象で描かれていて、
でもそれがリアリティがないかといえばまったく逆で、
まるで日本昔話みたいな絵柄なのに、登場人物や背景が生き生きとした存在感を放っている。
どうしても重くなりがちな戦争というテーマを、あの柔らかなタッチで矛盾なく表現し、
あのタッチだからこそ、悲惨なシーンを優しく受け止め、それを日常側の風景として描けている。
このことが、途方もない奇跡のように感じた。
どうしてそんなことができたのか?
たぶんそれは、その日常は主人公のすずさんが見ている世界だからという認識を、
観ている人たちに完璧に与えることができていたからかもしれない。
もちろんそれは、のんこと能年玲奈の、キャラクターに生命を吹き込む
類いまれなる演技力があってのことだ。
すずさんという人が、この世界では確かに生きていて、
毎日笑ったり、悲しんだり、怒ったりしている。
それはアニメ的な生命感ではなく、まさに自分と同じ生身の人間としての息づかいがあって、
その世界は自分が今いる場所とつながった同じレベルに存在している。
そんな感覚を観る人に抱かせることができたんだろうと思う。
極端なことをいうと、のんの「一人芝居」という演目を観ているような気さえした。
すずさんという登場人物を介して、物語の起伏や空気感を完璧にコントロールしきった奇跡の舞台。
ひとつのセリフ、ひとつの呼吸で、劇場の空気全体を震わせてしまう圧倒的な演技を
冒頭からエンディングまでやりきっていた。
すずさんが確かに生きていたからこそ、僕たちはあの世界の出来事に、
どうしようもない切なさや、親しみや、やりきれなさを、より強く感じることができたのだろう。
テーマは重く、背景も暗い時代なのだが、物語自体にはあっけらかんとした明るさがあり、
その先に希望を感じるようなつくりになっている。
その昔、祖父や祖母から聞いた戦争の話も、
けっこうみんな飄々と生きていた、と言っていたのを思い出したりもした。
そのあたりの個人的な昭和な思い出もあり、この映画は何回でも観たい作品となる気がしている。
[映画感想文 001] 『この世界の片隅に』その1
2017年11月28日