Column & Diary

[代表雑記 080] 以前住んでいた街の変わりよう

2018年4月4日

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上京してずいぶんの年月が流れた。
たまに地元に戻ると、かつての自分が知る街の変わりように驚がくすることがあるが、
自分の知っている東京だって、ずいぶん変わってしまっていることがある。

先日、所用で以前住んでいた桜新町に出かける機会があった。
この街には2000年ごろから約5年間暮らしていた。考えれば、20年近く前ということになる。
駅前には、洒落た店構えの飲食店や雑貨屋などが並んでいた。
着いた時はもう日が暮れていたので、あちこちで暖色系のライトが灯り、
有名な桜並木とあいまって、ちょっとセレブチックな郊外都市という雰囲気を醸し出している。
カルディや蔦屋書店など以前はなかったちょっと華やかな感じの店の合間に、
ミスタードーナツやドトールなど派手さはないが昔からある店を見つけ、ちょっと安心する。
長嶋茂雄のサインが飾ってあった老舗の蕎麦屋も健在だった。

ちょうど夕食時だったので、大好きだった定食屋に向かうことにした。
角打ちのようなコの字型のカウンターがあるつくりで、
昔ながらの大衆食堂の風情を漂わせる、きさらぎ亭。
味のある雰囲気で、嵐の写真集の舞台にも使われたと壁に写真が貼ってあったのを思い出す。
店に近づくと電気がついてないので、定休日かと思ったら、閉店していた。がく然とした。
よくよく見ると隣のブックオフも閉店し、このビル全体に人気がなくなっていた。
どうやら立て直しをするらしい。
張り紙をあらためて見ると、100mほど離れたところに移転したと書いてあった。

移転したきさらぎ亭の店内は、まさに様変わりしていた。
白い壁にスポットライト。コの字型のカウンターはあるが、
その大きさは以前の1/3にも満たないぐらいかもしれない。
いろいろあってこうなったんだろうな、と複雑な思いにとらわれるものの、
メニューの品揃えは昔どおり。スタッフの人たちのいい感じの働きぶりも以前のままだ。
定番のサバ塩定食を頼む。冷たいお茶が注がれる。
漬物、味噌汁が運ばれ、その次にご飯、そしてサバの塩焼きの登場。
まったく以前のままだった。パリッとした焼き目に、したたる脂。パーフェクトだ。
行列こそしないが、お客さんは次々に入ってくる。
カウンターに座り、注文する。その一連の流れは、その人の日常に組み込まれたものという感じ。
そうだ、これこそが、きさらぎ亭だ。
店に入った時点で、半分家に帰ったも同然という安堵感が出てしまう不思議。
今日あったことをあれこれ思い出しながら、角に置かれたテレビに目をやり、ご飯をほおばる。
あの頃のきさらぎ亭は、本当に代わりのきかない空間だった。
でも、それを知るお客さんが変わらず訪れることで、
この新しいきさらぎ亭も、次第に特別な店になっていくんだろうなと思った。

会計を済ませ、店を出る。
最後に「ごちそうさま」とひと声かける間合いがいつも悪くて、
スタッフからの「ありがとうございました」という返事がもらえない感じも、昔どおりだった。